写真/松浦摩耶
近年、ノルウェーはとても優れたチーズによって世界的に認知されるようになってきている。ブルーチーズのkraftkarやゴーダ風のfanaostといった世界チーズコンテストでトップにまで上り詰めたチーズによってである。
ノルウェーのチーズが海外で成功を収めるのに伴って、別の種類のノルウェーチーズも注目を集めるようになっている。その一つがユニークなキャラメル風味のブラウンチーズである。
しかし、ブラウンチーズが世界的に注目を集めている一方で、自分たちでブラウンチーズを作ってみようと思う人は多くない。
日本ではナカシマファームがその挑戦に最初に立ち上がった乳業者だ。我々は、詳しいことを知るために、酪農家であり、考案者であり、チーズ職人でもある中島大貴さんに話を聞いた。
ブラウンチーズを作るというアイディアはどのようにして出てきたのですか?
うちの牧場では既にたくさんチーズを作っていて、その副産物としてたくさんのホエーが出ていました。
ホエーはあるタイプのチーズを作るのに使えますが、その工程は我々のような小さい酪農家には、高くつきすぎます。なので、我々は仕方なく毎回たくさんの量のホエーを捨てていました。
その損失は大きく、私はどうやったらこの副産物を有益な製品に変えられるかと思案していました。
私はブラウンチーズのことは知らなかったけれど、代わりに、蘇と呼ばれる日本の乳製品から最初のインスピレーションを得ました。蘇は7世紀から10世紀の間に、天皇への献上品として用いられていました。
当時、蘇は栄養価が高いので医学的な利点があると見なされていました。また日本で最初の乳製品だと認識されています。
後になって、ノルウェーのgeitost(山羊乳から作られるタイプのブラウンチーズ)について偶然知って、ホエーと乳を結びつけて全く新しい種類のチーズが作れることに驚きました。
別の言い方をすれば、我々のチーズは日本の蘇とノルウェーのブラウンチーズの両方からインスピレーションを得ています。
どのくらいブラウンチーズを開発してきたのですか?
プロジェクトを始めてから3年になります。
作り方に関する確かな考えはありましたが、適切な道具を持っていませんでした。
設備を買うのは高くつくので、初めのうちは、必要な道具を貸してくれる場所に行きました。
しかし、このことが私が練習できる頻度を制限し、3か月に1回から1年に1回くらいの練習量になりました。
試行錯誤を通して、私はついにコツをつかみました。そして、2018年、次のジャパンチーズアワードが近づいていて、私は投資をしてブラウンチーズを自分たちの工房で直接始めるときが来たと気付きました。
私たちはアンコやカスタードクリームやキャラメルを作るための機械を買いました。
一番大きな障害は、ここ日本にはブラウンチーズを実際に作る経験をした人が誰もいないことでした。だから、独力で作り方を理解しなけらばなりませんでした。
でも、私は料理が好きで、ノルウェーのブラウンチーズを食べることで、ノルウェーの味に近づけるために何を足さなくてはいけないか想像することができました。
ノルウェーとのつながりについてもう少しお聞かせ願えませんか?
ノルウェーカフェのフグレンが私のノルウェーとのつながりを強めるのに力を貸してくださいました。
私はおよそ5年前に東京を訪れたときに、初めてそのカフェを見つけました。
フグレンは私が定期的に訪れていた会議場の近くにあって、店の良い雰囲気が私の好みだったので、私はノルウェーを背景に持つ店だと知らずに、コーヒーを飲むためによく寄っていました。
2018年の10月、ジャパンチーズアワードで我々のブラウンチーズが金賞を取った後で、私はコーヒーを飲むためにフグレンに寄りました。
私が淹れたてのコーヒーをカフェの外で味わっていると、隣の人たちが「これはブラウンチーズと言うって店員さんが言ってた。すごく美味しい!」と話すのが聞こえてきました。
「ブラウンチーズだって?」私はこの偶然に驚きました。
その人たちは、山羊乳で作られたチーズについて話していました。私はなんでこのタイプのチーズがフグレンで見つかるのだろうと思いました。
私は少し調べて、フグレンとノルウェーのつながりを知るようになりました。
私はフグレンに連絡をとって、浅草にあるフグレンの新店舗でミーティングをすることになりました。
これがフグレンと我々のコラボレーションの始まりで、様々なフィードバックを与えてくれて、私たちの製品をさらに進歩させることの手助けをしてくれました。
色が暗くり、味はノルウェーのブラウンチーズに近くなりました。
写真/松浦摩耶
ブラウンチーズは日本人の大部分には知られていない種類のチーズです。
どうすれば、あなた方の製品が日本で成功すると考えていますか?
新しいチーズを作るときは、それが使われる様々な場面を想像します。
日本では、多くの人はチーズについて考えると、日本酒やワインのことを連想しますが、私は常々コーヒーと合うチーズが必要だと感じていました。
ケーキ好きの一人として、甘いチーズの選択肢がないことについても考え続けてきました。
ブラウンチーズがキャラメル味がすると聞いたとき、これこそまさに私が作りたかったものだと思いました。
私の最初のターゲットは東京市場で、この独特な種類のチーズを日本で味わえることを、多くの人に知ってもらいたいと本当に思っています。
私の地元の嬉野では、自分たちのブラウンチーズが既に知名度を獲得しています。
ブラウンチーズにはたくさんの栄養があり、甘味料を入れていないのに、甘くて濃厚な味がするので、お年寄りの方にも食べやすいです。
ブラウンチーズひとかけらだけでも、たくさんのエネルギーを摂ることができます!
ブラウンチーズを日々の基礎食品として食べることもできる一方で、我々はお年寄りの方向けの栄養食としても提案しています。
ノルウェーでは、ブラウンチーズは既に必需食品になっているので、人々はその栄養面での価値についてあまり考えないです。しかし、私は、その点が日本の消費者にとっては重要性のあることだと信じています。
あなたのブラウンチーズは、ジャパンチーズアワード(JCA)2018でミックスチーズカテゴリのベストチーズに選ばれました。この賞を受賞したことについて、あなたの考えを少し聞かせてください。
ジャパンチーズアワードにこの先例のない種類のチーズで応募した理由は2つあります。
まずは、ブラウンチーズの日本初の生産者としての我々のブランドを確立したかったからです。
次に、他の乳業者にチーズの副産物にある可能性に気づいてもらいたかったからです。
私が思うに、自分たちが単に捨てているホエーが賞を受賞するチーズに変わると知って、みな目が醒める思いをしたと思います。
メディアからの注目もたくさん浴びましたが、人々はこの新しいチーズの使い方を知らないので、すぐに高い売り上げには結びつきませんでした。
しかし、少なくともナカシマファームが日本で最初のブラウンチーズ生産者であるとの評価を確立することには成功しました。
ビジネスは上手くいっています。ビジネスを広げたいと熱望している一方で、そのことはもっと多くのホエーが処分されることにもつながります。
従って、ジャパンチーズアワードからこの評価を受けたことで、ブラウンチーズが私の問題を解決するために、本当に鍵になってくると感じています。
何か他に言っておきたいことはありますか?
私は埼玉県の大学で建築を勉強しました。そのことが、チーズ製品だけでなく、佐賀県の小さな都市である嬉野をどうやって知ってもらうかについて考えるときにも、創造的に考えるための助けになっています。
ナカシマファームが嬉野の町の人たちの誇りの源になれたらとおもっています。
佐賀はチーズで知られている県ではありません。だから、我々の小さな牧場が今ノルウェー式のチーズを作っていることが、面白い運命のいたずらでもあるのです。
将来は、我々のブラウンチーズでノルウェーのチーズコンペに参加して、私の故郷を代表する機会が得られたらいいなと思っています。
(訳:勝又大)
NCCJ ED Anette Yamamoto-Hansen:在日ノルウェー商工会議所
ブラウンチーズブランドサイト
写真/松浦摩耶
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